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sajou no hana オフィシャルインタビュー(渡辺翔 単独/改訂版)公開

sajou no hana中心人物――渡辺翔が語る「新しい表現」とは…

――すでに作曲家・編曲家・作詞家として充分に成功している印象がある渡辺さんが、なぜ今改めてバンドを結成しようと思われたのでしょうか?
渡辺 翔 実は答えはすごくシンプルで、音楽作家として「楽しいこと」「面白そうなこと」を模索したその先に“バンドを結成する”があったという感じなんです。最近になって、たとえば一つのアニメ作品にまつわるキャラクターソングをすべて任せて頂けるようなケースや、自分の判断で作品をプロデュースさせて頂けるような仕事の任され方をするようになって、バンドという形態の活動に対して急に興味が湧いてきたんです。音楽作家というのは基本的に発注を受けて音楽を生み出す仕事ですが、自分が発注者の立場になって楽曲のアイデアを出して作ったり、全体像をイメージしながら音楽を構築、プロデュースしていくような、つまりはゼロをイチにするような音楽活動が僕の中で今一番楽しそうで、面白そうだなと思って。

――それを実現できるのがバンドだったと。
渡辺 僕の場合はそうですね。僕の音楽的なルーツって、実はほとんどがバンド・サウンドなんですよ。ヴィジュアル系バンドとかメロコアとかを学生時代はよく聴いていて、根本的な部分でギター・サウンドが好きなんです。具体的に言うとPIERROTや東京事変、あとジャンルだとポストロックとかシューゲイザーみたいな、暗くてノイジーな音楽も好きですね。最近では米津玄師さんとか一部のギター・サウンドに特化したボカロPの曲とかも好きで。ギターとかバンド・サウンドはずっと好きだったのに、今まで一度もバンドというものをやったことがなかったんです。

――メンバーとの出会いは?
渡辺 “自分からゼロをイチにできる音楽活動”については3年くらい前から漠然と考えていたのですが、ヴォーカルのsanaちゃんとはその頃に実は出会っていました。彼女は僕が審査員を務めたオーディションで見出されたシンガーなんです。キタニタツヤ君とは事務所(スマイルカンパニー)が同じなのですが、彼が事務所に入る前から「すごい」という噂は聞いていました。実際に聴いてみたら「確かにこれはヤバイ。めちゃくちゃイイ。」と。彼の作る楽曲っていい意味で作家っぽくないというか、自分のカラーを強く濃く打ち出しているところが僕には好印象だったんです。
――なるほど。
渡辺 3年くらい前から周りのスタッフに「何か自分から発信できるプロジェクトをやりたいな」と話したり、「自分がバンドをやるなら」みたいなイメージを基に好き勝手にデモを作ったりしていたんです。

――3年くらい前から考えていたこと、そして出会ってきた才能たちが、一気に形になったと。
渡辺 そういうことですね。僕たちの場合は学生時代から組んでいたバンドではないので、きっかけがないとここまで具体的には動きにくくて。だけどそのきっかけを与えて頂いたおかげで、sajou no hanaを結成することができました。ただ、バンドってヴォーカル・ギター・ドラム・ベースとかが基本的な編成だと思うんですけど、僕がsajou no hanaとして考える“理想とする音楽”に必要なものはすべてこの3人で生み出せるなと思って。だからこの3人なんです。

――バンドの中での役割分担は明確に分かれているのですか?
渡辺 一応僕が最年長だしリーダーとして引っ張っていく存在になるのかもしれませんけど、メンバーの立場は等しくありたいなと思っていて。このバンド名もメンバーで話し合って、キタニ君が出してくれたアイデアを採用したものなんです。バンドの目指すサウンドについても、3人の特性が一番良い形で活きるのがベストだと思っています。加えて、それぞれのメンバーの才能がより活きる形をお互いが提案していくことも大切だと思っているんです。たとえばヴォーカルのsanaちゃんって、強く歌おうと思えばどこまでも強い歌で表現できる子なのですが、それを敢えてせずに抑制をしっかりと効かせて、内側に秘めた熱や、内省的な表現も引き出すことで、よりバンドとの一体感や独自の個性にまで高められると思っていて。

――その内省的でありながらエモーショナルな表現を求めるという部分、sajou no hanaの音楽にそのまま通じる部分かもしれませんね。
渡辺 そうですね。楽曲を構成するさまざまな要素に意味やメッセージは盛り込んでいくと思うんですけど、その答えをすべて歌詞や歌で言い表すのではなく、聴いて下さる方に委ねるような音楽にしたくて。ある人にとっての日常は、他人から見れば非日常かもしれない。そんな不思議な心の風景や物語を読み聞かせるような、まるで独創的な絵本のような世界観というか。僕たち3人が揃ってバンドとして何かを表現するなら、こういうことなんじゃないかな? って。敢えて言葉にするなら儚さとか、無常感とか、切なさとか……僕って意外と、暗い音楽が好きなので(苦笑)。

――つまりsajou no hanaはその要素が色濃く出てきていると。
渡辺 そうですね。そこにsanaちゃんやキタニ君が持っている要素が加わるので、ただ単純にダークな音楽性というわけではなく、もっと複雑な色味や立体性を持ったバンドだと思っています。あとバンドというとロックをイメージされる方も多いと思いますが、別にロックに限定するつもりもなくて。音楽から見えてくる“色”が同じであれば、音楽ジャンルに対して余計なこだわりは持たずに作りたいと思っていますね。

――その感覚は、10年間の音楽作家活動を経て得たものなのかもしれませんね。
渡辺 僕は音楽を作る仕事をしていますけど、感覚としては学生の頃から今までずーっと音楽リスナーなんですよ。僕の作編曲家としてのポリシーは、「常に自分が普段聴きたくなる曲を作りたい」であり、僕の耳はリスナーとして世間一般の感覚だと思っています。音楽作家として10年間で培ってきた感覚と、sanaちゃんやキタニ君がいるからこそ生み出せる新しい表現。sajou no hanaは今僕が一番聴きたい音楽を生み出せる唯一の存在だと思っていますね。